– 旅先からの、友への便り。-
– いのちの物語 –
小雪 二〇二四年十一月二十二日〜十二月六日
僕は結局そのまんま、盛岡の家で過ごしています。九月の始めに盛岡に戻ってきて、三ヶ月と少し。心身を整えつつ、元気にマイペースに過ごしています。暦では小雪を迎え、盛岡でも雪が降りました。昨年と同じく、師走を迎える頃に。まだベタベタの雪ではありますが、雪の季節がまた一歩進みました。今期初めて、ほんのりと雪が積もっていた朝には、三男が大喜びで。
その前日、人生で初めてタイヤ交換をしました。確か一度だけ、ジャッキで車体を上げた記憶はあるような。当時の竹原での生活では、冬用タイヤに変える習慣はなかったのですが、何だったのか思い出せません。とにかく、こんな風にいつも、掃除を含めた作業を手を汚しながら行なってもらっていたのかと思うと、とてもありがたい気分です。そして、体験に勝るものはないなと、改めて思いました。
やはり、やってみるとわかることがありますね。続けることで、伝えることで更に。情報として「 知る 」から「 理解する 」に変わる印象です。つまり、本当の意味で知ることになるのかと。できれば、事の本質に触れることができれば御の字ですね。今回のタイヤ交換のように、家づくりでも家主が主体的に携わることが、僕の変わらない理想です。僕としては、その手伝いができれば嬉しいのです。
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しかし、暮らすことの中にはたくさんの物語がありますね。先のタイヤ交換にしても家事にしても、もしくはぼーっと過ごしていたとしても、その時間の中で感じられることがいくつもあります。そうやって日々を生きるだけでこんなにも出来事が起きるのに、一体自分は何に目を向け、何を思って生きてきたのだろうなぁ。それはそれで、自分にとって必要な体験だったのだとは思いますが。
特別な、刺激のある、非日常などの、自分が目を向けてきたものもまた、とても素敵なものなのだと思います。そして、自分の目の前にある、日々の暮らしの中に存在するささやかな要素もまた、とても素敵なものだと思えるようになりました。そんな普段の、僕らが生きるための暮らしで繰り返される、けれども日々変化している作業の中に、とても大切なことが含まれているのだと、今では思えます。
盛岡の家での日々の中で、珈琲豆を自分なりに配合してみたり、友人が作ったにんにくでアーリオ・オーリオ的なものを作ってみたり。三男のためのフライドポテトや、自作のきりたんぽでの鍋、豆腐を混ぜた鶏団子や炊き込みごはんなども。繰り返される暮らしの中の、何でもない時間です。けれども、それらに同じ瞬間なんて二度とないし、何より僕に、生きていることを実感させてくれます。
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そんな生命の物語が、僕らの周りには存在の数ほどあるのだと思えました。人だけでなく、生き物や植物、大地や海や川、建物や道具などにも物語が存在しています。最近は、そこにあるもの、という言葉を使う機会が多かったのですが、僕にとってはそれが、そこにあるもの、だと思えました。そんな、かけがえのない物語に囲まれながら自分の物語を生きているのだと、改めて思うことができたのです。
とある日に、古道具の展示にお邪魔しました。古民家の納屋に並んだ古道具は、最初からそこにあった物のように、空間に溶け込んでいました。展示をされていたワタナベさんご自身も。そういえば以前、同じくここで行われた別の展示でも、空間に溶け込むようにそこに存在していました。こんな風に、生活環境で眺めて違和感を感じないものが、僕の好きな物を表す要素の一つなのだと思います。
外で古道具の販売もされていたので、小皿と湯呑みを買って帰りました。湯呑みは統制陶器で、白湯や珈琲を飲むのに使っています。そんな体験を経て、竹原で蚤の市を開催してみたいな、とふと思いました。紫波町の志和蚤の市や、雑司ヶ谷の手創り市のように、境内などの生活環境で開かれるような。例えば年に二回ほど、こぢんまりと開催して、物語を持った道具がまた、次の使い手の物語に色を添えるのです。
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そういえば、僕にとって自分らしく幸せに生きることは、穏やかに笑ってこの世を去ることと同義、だと思えた時がありました。やはり、生と死などの相反する要素は、同じものからできているのだと思います。どちらかだけでは機能しないのかもしれません。胸を張って、穏やかに笑いながらこの世を去るためにも、自分が望むことを一つずつ叶えていけるといいなと。
先日の、サンフレッチェ広島のホーム最終戦では、青山敏弘の引退セレモニーがありました。彼が入団してから、それほどの月日が流れたのですね。彼の人柄と、21年の想いが溢れていました。日本代表クラスの選手が同じチームでキャリアを終えることは、海外移籍の頻度が激増した今では今後無いのかもしれません。Jリーグが世界指折りのリーグとして挙げられるようになれば違ってくるのかもしれませんが。
そんなセレモニーを眺めながら、終わりの儀式の重要さを感じました。あの場で、自分の引退の時のことを考えた現役選手もたくさんいたのだと思います。引退を意識しなければならない年齢であればあるほどに。そこにきちんと目を向けられた人ほど、現役生活をより佳きものにする可能性は高いのかも、なんて思いました。これはサッカーに限らず、何にでも言えることなのだと思います。
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今期も湯たんぽが登場するようになりました。初日は生温かいほどで準備したのですが、それでも足元が温かいのが嬉しくて。足が熱くて嫌だった頃が遠い昔のようです。そうやって人は変化していくのですね。そんな変化を受け容れながら、年を重ねていくということでしょうか。そういえば、目も見え方も変わってきました。眼鏡をかけていると近くが見えにくかったり、暗転が追いつかなかったり。
そんな経年変化が味となり、僕の人生をさらに彩ってくれるのでしょう。この先、出来ないことも増えてくるのでしょうが、それはそれで人の手を借りるなりして生きていくわけで。今も充分に、人に助けてもらいながら生きていますが。そんな優しい世界で、僕は生かされているのですね。ありがたいです。願わくば、受け取っている分より少しでも多く、僕もこの世に贈与を巡らせ続けられると嬉しいです。
先日思い立って、写真を並べたデータの印刷を試みました。雑誌を参考にしたのですが、これも Zine と呼べるのかな。今は旧Twitter で二十四節気毎にテーマを決めて投稿しているのですが、小雪に使った写真から選び、撮影日と場所、短い言葉を添えて。そしてこの、「 旅の途中の 」も縦書きで印刷を試みています。そうやって今は少しずつ、世に巡らせるものを自分なりに形にしているところです。お愉しみに。
おわり
” 「 旅の途中の 」では、旅先から届ける友人への手紙、として言葉を綴っています。二十四節気の暦に沿ってお届けできたらと。僕の、旅する暮らしの中で起きる些細な出来事を通じて、ほっとひと息ついてもらえたら幸いです。”
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これまでもこれからも
心がおどる、たのしい日々を。
最後まで読んでいただき、どうもありがとうございます。
– 自分らしく、しあわせに生きること –
COBAKEN LIFESTYELE LABO
1977年、広島生まれ。ファシリテーター。広島県竹原市と岩手県盛岡市の二拠点生活+旅。スキナコトヲ スキナトキニ スキナトコロデ、とういう生き方。ファシリテーターとして促すのは、目の前の相手の人生。
詳しいプロフィール ⇒ cobaken.net/profile