– 一枚の写真から綴られる、ひとつの旅の物語。 –
サイアム駅でBTSのシーロムラインに乗り換えて南へ向かっていた。途中、ルンピニー公園の横や、シーロムの街を通り、チャオプラヤ川を越えていく。目指すのは、そこから2駅進んだところにある、ウォンウィエン ヤイ駅。
もう少しで、スワンナプーム空港からの電車旅が終わりを迎える。目的地に近づけば近づくほど、人は少なくなるから。
聴き慣れたアナウンスが流れた後、電車はホームに停車した。バックパックを背負い、冷房がしっかりと効いた車内からホームに降りた。その向こうには、見慣れた景色が見える。高架の2階部分にあるホームから改札階へ降りる階段を下りながら僕は、全く高揚感のない、むしろ穏やかな状態の自分を不思議に思っていた。
改札を出て少し歩いたところにある、北側に渡る歩道橋を歩いた。その下にはたくさん車が走っていて、来る度に混雑していく道路を、立ち止まって眺める。東にまっすぐ延びる道路の向こうには高いビルが立ち並び、今居るトンブリー区の雰囲気とは全然違った様相で。だからこそいつも、このエリアを選んで宿泊する。僕としては、タイの人たちの暮らしに触れたいから。
道路の上を渡りきると歩道橋が左に曲がり、その先にエレベーターがある。大きなバックパックを背負っている身としては、たくさん人が待っていると気になる。でも今回は、ひとりしか居なくてホッとした。そして、銀色に装飾されたエレベーターに乗り込んだ。
僕自身、エレベーター内での、無言の時間がとても長く感じるタイプ。そこに、日本では見かけることの無い、この無機質な空間が追い打ちをかける。その追い討ちが見事にプレッシャーを与えてくれた。とはいっても、息を止めていても死にそうにもならない、そんな程度の時間でしかない。そんな時間に終わりを告げるように、エレベーターの扉から太陽の光が差し込んできた。
エレベーターをから出て、私は北に向かってまっすぐ延びた道を歩く。車が2台並べばいっぱいになるくらいの幅の、その道の名前は、クルントンブリー ソイ ヌン ( Krung Thonburi soi 1 ) 。その道の入り口にはいつもバイクタクシーが数台待機しているのだが、ここで乗ったことは1度も無くて、この先にある常宿までの景色を眺めながら歩いていくのが好きだ。
最初の小さな交差点の角にある食堂のおじさんは、昔、東京で仕事をしていたらしく、お店に行くと片言の日本語で話しかけてくれる。ここはいつも、近所の学生たちがよく昼ごはんを食べに来るので、そのタイミングに重なってしまうと、ものすごく囲まれた気分になる。料理はカレーが中心で、辛いのだが優しい味付けでよく来るお店のひとつ。まだここもお店が続いててくれてよかった。また食べに来よう。
そこから 10 歩ほど歩いたところにあるクリーニング屋さんの外に、洗濯機が置いてある。20 バーツ ( 約 60 円 ) 入れると使えるのだが、だいきと初めてこのあたりに宿泊して以来、よく利用させてもらってきた。ホテルから洗濯物を持って歩いてきて放り込み、持参の洗剤を入れて1度ホテルに戻ったり、先ほどの店でご飯を食べたり。2台とも使われている時はクリーニング屋のおばちゃんが預かってくれて、回してくれていた。今はひとり分なので部屋で手洗いして干すようになり、この洗濯機を使うことは無くなったのだが、道端にある洗濯機に当時はとても驚いた。
そのまま道をまっすぐ歩いていくと、左手に小さなスーパーができていて、その先にある塗料やシートなどの資材屋さんを越えると左手にセブンイレブンが見えてくる。その手前にあるのがこの写真の焼き鳥屋さん。この焼き鳥屋さんは焼き鳥も美味しいのだが、このお兄さんの人柄も好きでよく買って帰る。
最初の頃は指で指して、指で本数を伝えると、網の上で温めてくれていたのだが、地元の人が買う姿を何度か見て、私もそれなりに真似するようになった。パットの上に置いてある焼いた串を自分で選んで網の上に置くと、お兄さんがキレイに並び替えてくれる。それを透明の小さな袋に入れて、そして持つところのある白いビニール袋に入れてくれる。
だいたいいつも、串を3本と、保温のできる大きな赤い入れ物に入れてあるタイ米のもち米、カーオニャオも一緒にお願いする。すると、その大きな赤い入れ物からしゃもじでお米をすくいあげると、先ほどの串を入れた透明の小さなビニール袋に入れてくれるのだ。それで 40 バーツ ( 約 120 円 ) から 45 バーツ ( 約 135 円 ) くらい。
ちょうどお腹が空いていたので、私はバックパックを背負ったままお兄さんの焼き鳥を買って帰った。約1年ぶりにタイに来たのだが、ちゃんと私のことを覚えていてくれてうれしい。今回は7日間ほど滞在することを告げると、お兄さんのステキな笑顔が返ってきた。そんな笑顔を見れるのがうれしい。何よりうれしい。
私の旅先でのよろこび、それは再びその人に出逢ってその人の笑顔を見ること。元気に過ごしている姿を再び見ることができる、その人の音が聴けること、それ以上にうれしいことはない。絶景にも興味が無いわけではないが、やはり私にとって旅とは人を訪ね、人に出逢うこと、なのだ。
そんなことを思いながら私はホテルに戻った。テーブルに焼き鳥ともち米、そして販売時間外だったのでホテルで買ったビールを遅めの昼ごはんにして、そのあとエアコンの効いた部屋の中にある大きなベッドで、成田からの移動の疲れを癒すべく、深い深い眠りについた。
おわり
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1977年、広島生まれ。ファシリテーター。広島県竹原市と岩手県盛岡市の二拠点生活+旅。スキナコトヲ スキナトキニ スキナトコロデ、とういう生き方。ファシリテーターとして促すのは、目の前の相手の人生。
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