Ver.1.0.1
– 切り取られた景色。何でもない日常。-
自分にとって節目を迎えた日の午後、僕はひとり部屋に横たわり、ふと掃き出し窓から見える空を見上げてみた。うろこのような雲が広がって、向こうの方から光が指してくる。
ほんの数時間前の話だが、今日は少し遅めの昼ごはんを準備しようとキッチンに立ち、近所の八百屋さんでまとめ買いすることになったもやしを水洗いし、ザルを流しからあげた。
「 お兄ちゃん、もやしいらない? 4 個で 100 円にしとくから。」
「 もやし好きだけど、4個もいらないかな。2個で充分だよ。 」
「 明日から休みだからね。」
「 そうかぁ、じゃあ俺、今日からもやしを食べて生きようか。」
八百屋のおばちゃんが嬉しそう。
「 茹でてサラダにして、ポン酢とごま油で食べるのも美味しいよ。」
「 ポン酢にごま油なんだ。やってみようかな。」
「 あと、キムチは食べない?」
「 うん、もうこれだけあれば充分。食べられないよ。」
こんな流れもあり、1袋50円で売られていた大きめのもやしを4袋100円で引き取った。僕は、ローカルなお店での、こんなやりとりが好きだったりする。大手スーパーではあまりお目にかかれない、人との関わりがそこにはある。
そんな昨日をふり返りながらザルをあげた時、頭をよぎったのが ” ビールで乾杯 ” というイメージ。思い立ってすぐ冷蔵庫を開け、昨夜の残り物である小松菜のお浸しがあることを確認した。僕は部屋着にしている黒のサッカーパンツから、少しくたびれたジーンズに履き替える。そして、黒のTシャツをタンクトップの上から着て部屋を出た。
茶色い革製のコインケースと財布、それと部屋の鍵、あと念のためカメラを引き連れて外に出ると、涼しいの風が吹いてきた。でも日向になるとすぐ、半袖にサンダルで充分と思える温かさが僕を包み込んでくれる。どうやら今日もいい天気みたい。
割と大きめな道路なのだけれど、人通りの少ないこの道。両サイドには一戸建ての住宅が並んでいて、出てすぐの角には住宅兼店舗のイタリアンレストランがある。少し歩くと半地下にバレエ教室、1.5階に美容室、その上は工務店とアパートになっているあずき色の建物も。
そのあずき色の建物を越えてすぐにある橋を渡る頃にはまわりの建物が急に高くなって、急に新しくできたばかりの駅前の装いと変わっていく。僕は導かれるように、駅のすぐそばにある古本屋さんに入っていった。
最近は1階のマンガを物色するのではなく、2階にある文庫本を物色することが多い。とはいってもここでは買わずに、どんな本があるのかを教えてもらっている。僕にとっては情報収集の場。ありがたい。買うのは本屋さんで新刊としてか、個人で経営している古本屋さんがいいな。そうだとして、この全国にある古本屋さんにどんな感謝の気持ちを巡らせようか。
何となく気になるタイトルの本を手にとり、1ページ目に目を通す。書き出しの表現を少し勉強したい気持ちもあって。自分にとって吸い込まれるような表現ってどのようなものなのか、それを確認しならが物色する。そして、好きだな、と思う著者やタイトルを覚えておき、またいつか交換希望リストに書き込む、そんな流れ。
そんな物色を済ませたあと、当初の目的だったビールを買いに、駅前の酒屋さんの方に歩いた。いつもより駅前においてある自転車が少ない気がする。人はある程度いるけど、いつもよりガヤガヤしていない、そんな感じがする。
シャッターが閉まっている、どうやら酒屋さんは休みのよう。今日が日曜日だからなのか。それともシルバーウィークだからか。さてどうしよう。駅の1階にあるスーパーか、それともロータリーの向こうにあるお店の地下にあるスーパーか。決めた。地下の店に行ってみよう。
入口で出てきたお客さんとすれ違いながら、まっすぐお店に入る。そのままエスカレーターの方に歩いていき、地下に向かうエスカレーターに乗って下へと降りていった。ここの2階にある本屋さんでも物色することが多い。けれども今日は、ビールを買って戻るという目的を果たすため、2階の本屋さんに向かうこともなく、お店に並ぶその他の商品にも目もくれず、僕はお酒を並べているエリアに歩いていった。
大好きなラガービールがない。同じメーカーの別のビールはあったけど、そのメーカーが好きなのではなく、ラガービールが好きなのだ。どうしよう、他のビールにしようか、なんて考えながら、近くに並んでいるワインを眺めてみた。ワインもいいかも。僕は赤ワインが好きで、渋めのものを好む。よく買うのはイタリアワインかチリワインで、500 ~ 1,000 円くらいの価格帯でラベルが気に入ったものを選ぶようにしている。いつもなんとなくで買うから基本的に飲んだことがあるかどうかなんてのは覚えていない。たまに、ラベルで覚えているものはあるが。
結果的に何も買わずに1階へ上がった。少し離れているスーパーまで行ってラガービールを買って帰ることに決めたから。1階に上がったらいい匂いがしてきた。ここのお店に入っているパン屋さんは地元広島のパン屋さん。昔は僕の地元の駅前にもあったから、馴染みのある名前。最近はここの塩バターパンが好きで、人をよけるためにパンが開け閉めできるショーケースに並んでいる側を通るとつい、塩バターパンの前に立ち止まってしまった。
もうひとつのスーパーまで歩きながら、僕は塩バターパンをちぎって食べる。1度目は 1/4 がちぎれた。2度目も同じく 1/4 。残り半分になってからはちぎりながら食べるのがめんどくさくなって、そのままかじりついた。少し固めのパンの表面と優しいバターの味わいがちょうどいい。昼の準備をしようと思った矢先の思いつきの買い物中の今なのだが、実はお腹が空いている訳ではない。ただビールで今日という日を祝いたいだけ。だからこのパンでますます、お腹の空腹を充たすことになってしまった。
スーパーへと歩く道はさっき渡った川と平行に歩いていいく。だんだん遠くなってしまうけど、それでものんびり街を歩きながら過ごすのもいいな、って。道路の右側にほんの少しある日陰を歩き、陰で隠しきれない首の後ろで光合成するように歩道を歩いていった。
今度はお店の中をぐるっと物色しながら歩く僕がいる。どうやらすぐに買って帰って乾杯、という流れはあきらめて、ゆったりと昼下がりの時間を楽しみながら過ごすことに決めたようだ。結局買ったのは、ラガービールが2本と同じメーカーが出している秋バージョンのビール。これもけっこう好きだったりする。お店の中をあらかた歩いて僕はレジに並んだ。ビール3本で588円、レジの横にある買い物した時に1枚だけもらえるビニール袋にビールを入れてお店を出た。
帰りは川沿いを歩きながら、遠くに見える青い空を時折立ち止まり、カメラを構えたりしながら歩いた。川沿いにはずっと樹が立ち並んでいて、青い色と緑色とが視界の中に広がって、世界の広がりを僕に与えてくれた。
そんな、短くて長い旅を終えて僕は戻った。冷蔵庫で待ってくれていた小松菜のおひたしと、ザルで水切りされたままのもやしをごま油で炒めて塩こしょうで味付けて、それらをあてにしてビールを飲む。今日という日の乾杯に。
そのあと僕は眠りについた。思いつきからはじまった小さな旅の疲れを癒しながら。その眠りから目覚めると窓の外にはうろこみたいな雲が広がっていて、向こうの方から光が指していた。
さて、そろそろ目覚めよう。もう少ししたら心地いい音が聴けるから、その音を聴きながら残りの今日を過ごしていこう。
おわり
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これまでもこれからも
心がおどる、たのしい日々を。
最後まで読んでいただき、どうもありがとうございます。
– 自分らしく、しあわせに生きること –
COBAKEN LIFESTYELE LABO
1977年、広島生まれ。ファシリテーター。広島県竹原市と岩手県盛岡市の二拠点生活+旅。スキナコトヲ スキナトキニ スキナトコロデ、とういう生き方。ファシリテーターとして促すのは、目の前の相手の人生。
詳しいプロフィール ⇒ cobaken.net/profile